THK株式会社について
1. 概要と企業理念
THK株式会社(THK Co., Ltd.)は、直動システムの分野で世界をリードする日本の機械部品メーカーです。社名「THK」は「Toughness(強さ)」「High Quality(高品質)」「Know-how(ノウハウ)」の頭文字から取られています。
1971年に創業された比較的新しい企業ながら、「直線運動案内部品(リニアモーションガイド、以下LMガイド)」を世界で初めて実用化したことで知られ、製造業、半導体、医療、自動車、ロボティクスなどあらゆる分野での基盤技術を提供しています。
同社は「革新と創造」を企業理念に掲げ、創業以来、常に世界初の製品を生み出して業界を牽引してきました。
2. 歴史と沿革
THKは1971年に東京で設立されました。当時、工作機械や産業ロボットにおける「直線運動の精度確保」は、技術者たちの大きな課題の一つでした。
従来は「すべり案内(スライド方式)」が主流でしたが、摩擦や磨耗、油の供給などに問題が多く、精密機械の高精度化・高速化の障害となっていました。
そこでTHKは1972年、世界初の「LMガイド(Linear Motion Guide)」を開発し、ボールやローラーを用いて“ころがり案内”を実現。これにより、摩擦抵抗が極めて小さく、耐久性と位置決め精度の高い直線運動が可能となり、製造業の効率と品質が飛躍的に向上したのです。
以降、THKはこの分野でのリーディングカンパニーとして、製品ラインナップを拡充し続けています。
3. 主な製品と技術
(1) LMガイド(リニアモーションガイド)
THKの代名詞ともいえる製品で、工作機械や産業用ロボット、半導体製造装置、医療機器などに欠かせない部品です。高精度・高剛性・低摩擦で、微細な位置決めや高速移動が求められる用途に最適です。
構造の特徴:
- ボールまたはローラーが軌道上を転がることで、摩擦を極限まで抑える
- 自動潤滑装置が組み込まれたモデルもあり、メンテナンスフリー
- 多種多様なサイズ・荷重対応タイプが存在
(2) ボールねじ
回転運動を直線運動に変換する機械要素部品。高効率な運動伝達が可能で、NC工作機械や電動アクチュエーターなどに広く使用されます。
(3) クロスローラーリング
高精度な回転軸受。一般的なベアリングよりも回転精度が高く、光学機器、ロボットの関節、MRI装置などに使用されます。
(4) 電動アクチュエーター(ロボシリンダー)
LMガイドとボールねじを内蔵した電動駆動ユニット。エアシリンダーからの置き換えが進んでおり、自動化・省エネニーズの高まりとともに需要が拡大中です。
(5) Seismic Isolation Systems(免震システム)
建物の基礎部分に設置することで、地震の揺れを吸収・軽減する独自技術。THKの免震装置は、美術館、歴史的建造物、病院などの重要施設にも導入されています。
4. 産業別の活用事例
THKの製品は、次のような多様な業界で使用されています。
工作機械・自動機械
- 高精度切削機械や組立ラインにおける位置決め機構
- 自動車や航空機部品の加工装置に必須
半導体・液晶装置
- ウェハ搬送、微細加工装置、検査装置などに利用
- 超高精度・クリーンルーム対応の特殊仕様も提供
医療機器
- CTスキャナ、MRI、手術用ロボットなどの可動部
- 滑らかで静粛な動作と耐久性が重要視される分野
ロボット産業
- 多関節ロボット、協働ロボットの関節や移動部
- 高速応答と正確な軌道制御を実現
5. グローバル展開
THKは1990年代以降、グローバル戦略を本格化させ、欧米・アジアを中心に広く拠点を展開しています。現在では、アメリカ、ドイツ、中国、韓国、インドなどに生産・販売・サービス拠点を構え、売上の約6割以上を海外市場が占めています。
海外でも「精密直動機器のリーディングブランド」として認知されており、とくに産業自動化の進む欧州や北米では、品質の高さと納期対応力が強く評価されています。
6. 技術開発とDX
THKは製品の機能進化にとどまらず、IoTと融合したスマート部品の開発にも注力しています。たとえば「OMNIedge(オムニエッジ)」というシステムは、LMガイドやボールねじの稼働状態をセンサで監視し、予知保全を可能にするサービス。機械の故障を未然に防ぐ「デジタルメンテナンス」は、工場のスマート化に貢献します。
加えて、AIやクラウドと連携することで、現場の効率向上や人材不足への対応も図っており、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。
7. 社会貢献とサステナビリティ
THKはCSR活動にも積極的です。環境への配慮として、再生可能エネルギーの導入、省エネ設計、グリーン調達などを進めています。また、震災時の支援活動や、教育機関への技術提供、若手技術者の育成支援にも取り組んでいます。
特に建築分野での免震技術の普及は、社会インフラの安全性向上に直結するものであり、公共性の高い技術といえます。
8. 今後の展望
今後THKが注力するとみられる分野は以下の通りです:
- 自動化・省人化:FA(ファクトリーオートメーション)の需要増に伴い、電動アクチュエーターやIoT対応製品の需要が拡大
- EV・自動運転:自動車の電動化に対応した高精度直動部品、制振・振動制御システムの進化
- 医療・ライフサイエンス:手術支援ロボットや検査機器向けの高信頼製品の供給
- 都市防災・建築技術:免震・制震技術のさらなる普及と高性能化
THKは、「世界初のLMガイド」を生んだ技術革新企業として、直動システムに革命をもたらした存在です。現在も、FA、半導体、医療、ロボット、建築といった幅広い分野で、社会や産業の根幹を支えています。
ものづくりの現場を陰で支える「黒子的存在」でありながら、その技術の精密さと信頼性は、世界中のエンジニアたちにとって不可欠なものです。今後も、製品の高度化、デジタル融合、グローバル展開を通じて、THKは「動くすべてのものの未来」を支えていくでしょう。
エピソード①:美術館の命を救った「黒子の装置」
舞台:ある地方都市の美術館
2000年代初頭、THKは全国の重要文化財施設向けに免震装置を導入し始めていました。中でも特に注目されたのが、ある地方美術館に導入された「建物全体を浮かせる免震装置」です。
その美術館には、日本画の巨匠の貴重な作品や、重要文化財級の陶磁器が数多く展示されていました。あるとき大地震が発生し、市内の多くの建物が被害を受けたにもかかわらず、その美術館だけは展示物に傷ひとつなく、来館者や職員も無事だったのです。
震災後に現地を訪れたTHKのエンジニアに、美術館の館長がこう言ったそうです。
「あの地震の揺れが“来る”と分かった瞬間、真っ先に思い出したのが、床下にあるあなたたちの装置でした。あれがある限り、うちは大丈夫だと心の中で思えたんです。」
技術者たちは“部品屋”の誇りを持って製品を作っていたが、この一言で「命や文化を守る力が技術にある」と実感し、目頭が熱くなったとのことです。
エピソード②:社長が泣いた「一通のファンレター」
舞台:THK製品が使われた手術ロボット
THKのLMガイドは、近年では医療機器にも多く使われています。ある医療機器メーカーが開発した手術支援ロボットに、THKの超精密LMガイドが採用されました。医師の細かい手の動きを忠実に再現するためには、ほんの数ミクロン単位での滑らかな動きが必要であり、THKの技術がその要件を満たしていたのです。
この手術ロボットによって命を救われた患者の家族から、なんとTHK本社宛に手書きの手紙が届きました。
「あなたたちの部品が、あの機械に入っていなければ、私の家族はもういなかったかもしれません。本当にありがとうございます。」
この手紙は社内で回覧され、当時の社長が涙ぐんだというエピソードが語り継がれています。
技術者の多くは、最終製品に自社の部品が「名前も出ずに」組み込まれていることを当然だと思っていますが、誰かの命や人生に関わっているという事実に改めて気づかされるきっかけになったそうです。
THKの製品は、表舞台に立つものではありません。ですが、その“陰の力”がなければ多くの機械は動かず、命を守ることも、文化を残すこともできません。
「動きを支える」「揺れを止める」という一見地味な技術が、世界の安全や豊かさに直結している——それがTHKの真のすごさであり、技術者たちの静かな誇りなのです。
サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、 THK製の製品・部品は約 1700種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認されませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2024年 07月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。